母からのプレッシャーに心を壊したエリート社員。オリンピック出場を断念した元フィギュアスケーター。勉強が苦手で故郷を飛び出した料理人。挫折をひた隠し、閉塞感の中で縮こまる3人が、中国と北朝鮮の国境の街、延吉に流れ着いた。磁石のように引き寄せられ、数日間を気ままに過ごす彼ら。深入りせずに、この瞬間をひたすら楽しむ、それが暗黙のルールだ。過去も未来も忘れ、極寒の延吉をクルーズするうちに、凍りついていた孤独がほどけていった。
中国の東北地方、北朝鮮との国境上、長白山脈北麓に位置する吉林省延辺朝鮮族自治州の首府。古代朝鮮の三国時代には高句麗、その後は渤海国に属していた。19世紀後半に朝鮮半島からの移民が増え、2022年現在で人口56万人のうち約55%を朝鮮族が占めている。中国と朝鮮の文化が入り混じる街並みは中国国内外の観光客に人気で、作中に登場する中国朝鮮族民族園は延吉観光の定番。
延吉から足を延ばし、休火山の長白山(韓国名:白頭山)と、世界最高地山頂のカルデラ湖の天池、長白瀑布を訪れる日帰りツアーも人気。北緯42度50分ゆえに冬は最高気温が氷点下、最低気温がマイナス20度を下回ることもあり、メイキング映像ではクランクアップ祝いのシャンパンが凍りついていた様子が記録されている。
中国と北朝鮮との国境を流れる豆満江(とまんこう)を渡り密入国する北朝鮮人が多く、延吉は脱北者が身を潜めて暮らす都市という裏の顔も持つ。
(人口データ:延吉市人民政府【人口構成】より)